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私が見た、夢でもなく現実でもない世界

第4話 人間の考えることは考えない


作者 目次


人間の考えることは考えない

其れは野辺地と言う田舎の駅で列車から降りるところから始まる。不思議なことにすべてが白黒映像であった。
私が列車から降りると直ぐに鋭い汽笛とともに列車は動きだしたが、それは蒸気で動くSLであった。
私は今時まだこんな列車が走ってるんだなぁと感心したのを記憶している。
片手にアタッシュケースを持ちそそくさと駅の改札を抜けると、私は小雪が舞う薄暗い夜道を繁華街へと向かった。
少し歩くと赤い看板が目に入ってきた。
そこには黒いカタカナ文字でルージュと描いてあった。
勢いよくドアを開けると、カウンターの中に1人の中年女が口紅をさしていた。
女は 「 いらっしゃい」と一言つぶやいた。
私は無言のままカウンターに腰かけアタッシュケースをカウンターの上に置いて、
「 実はママ、今私は店の名入れのライターの営業でまわってるんだ !よかったらサンプルを見てくれないか!」
そう言ってカウンターの上に置いたアタッシュケースを開き、中のサンプルのライターを取り出してママの目の前で火をつけようとしたが、ライターの石が湿ったせいか、なかなか火は付かず、次のライターを取り出して火をつけようとしたが、コレもまた何度やっても火が付かない。
焦った私は次から次へとライターを取り出しては火をつけようと試みるも、どれもコレも全く火が付かない。
ママは見兼ねて「 あら、お兄さん本当にライターの営業なの?本当はライターの営業じゃないでしょう!ウチに来た目的は? 」
私は焦りながら次々にライターを取り出してはみたが、やはりどれもコレも全く火が付かない!
するとママは、
「わかったわ、ライターをしまって中へおはいりになって。」
といって立ち上がり、私を奥の部屋へ案内しようとした。
実はこのママは変装した私の同志だったのである。
これまでのやりとりはすべてお互いに同志であることを確かめるための手の込んだサインだったのだ。
ライターははじめからすべて水に濡らしてあった。
ライターに火をつけようとするがつかないという演技をする。それに対して、「うちに来た目的は?」と訪ねる。再びライターに火をつけようとするが、つかない。というのが、お互いに同志であることを確認するための決まりであった。
私たちは、「Don't think about the human being thinking.(人間の考えることは考えない)」という長い名称を持った秘密結社の会員であった。
私は、アタッシュケースをもって同志の後について部屋の中に入った。
「こんな田舎までよく来たね。そこにかけてくれ。」
ママは男の声に変わり、椅子をすすめた。
「大事な連絡事項があるのだが手短に話そう。」
彼は自分の名前を名乗ることもしなかった。実はそういう決まりなのである。
同志は書棚から図面のようなものを取り出してテーブルに広げた。
「この図は一度は見たことがあると思う。」
確かに見たことのある図であった。私が、資本主義社会がどのようにして出来たのかを調べようとして資料をあさっていた頃、何度かお目にかかった図である。 それはピラミッドの形をした人間社会の階層を表す図であった。底辺には世界の国々がある。その一段上には世界にエネルギーを供給する大企業。その上にはメガバンク。その上には各国の中央銀行。その上にはIMFやWorld Bank。その上には国際決済銀行。そして、頂点に国際決済銀行を作ったロスチャイルド一族。このピラミッド構造に従って全世界のお金は国際決済銀行・ロスチャイルド一族へと流れていく。その保有資産は京円を超えるという。国際決済銀行に加入していないのは、キューバ、イラン、北朝鮮の3国のみ。ロスチャイルドによる世界支配は完成間近という図式である。
「この図が本当かどうかなどということはどうでもいい。ただ、おおかまかは本当である。特にこのピラミッド構造、これは人間社会における欲望原理を表す普遍的公式といっていいだろう。何かを欲しがる人々は常に底辺に位置する。与える立場にある人はより上位にあって低位からの富を受け取ることが出来る。このピラミッドの階梯を昇るためには自分の上位に奉仕しなければならない。何かを欲しがる、すなわち欲望を持つ限り人はこのピラミッド構造の支配を逃れることは出来ない。」
と、同志は解説をしてくれた。
「それならば、何かを欲しがるのをやめれば、この支配構造から逃れることができるということになるよ。」
と私は言った。
「全くその通り、しかし、ほとんどすべての人にはそれは出来ない。何かを欲しがらなければ生きていけないのだと、社会制度と教育によって徹底的に洗脳されているからね。欲望というものを超えた視点さえもてば、簡単にこの支配構造から抜け出し自由な人生を歩むことが出来る。人がどのような人生を送るか、すなわち運命というものを決定しているのは欲望ではない、その人自身の業だからなんだ。」
「資本主義社会はすでに崩壊の過程にある。しかし、それも頂点に立つ人たちが仕組んでいること。世界経済に大変動をおこし、それを利用してより多くの富を集めて一極支配を完成させようとしているんでしょう。」
と、私は自分の学んだ知識で補足した。
「その通りだね。では本題に入ろう。この図式の底辺から頂点まで貫いている2つのキーワードがある。それは銀行と決済という言葉である。つまりこの2つの概念に依存してこの支配構造は成り立っているということだ。銀行は通貨を扱い、決済システムを司り、集めた金を使ってそれを増やす。つまり、銀行の発行する通貨を使って決済を行う経済活動はすべてこの支配構造の配下にあるのだ。逆に考えれば、銀行を使わない経済活動が広まればこの支配構造は成り立たなくなっていくことになる。」
「暗号通貨が生まれているけど。」
とすかさず私は言った。
「そうだね。暗号通貨の本質は個人間取引であり国家や銀行と切り離されている。しかし、現在は主に資産を持っている人たちが投機の対象として利用している段階だ。暗号通貨技術の中にスマートコントラクトという決済システムを自由に作ることのできる技術がある。通貨と決済システム双方が個人のものとなったとき、本格的な革命が訪れるだろう。それはアマゾンやフェイスブックやGoogleといった企業さえも超えていくことだろう。なぜならこれらの企業は、現行の銀行と決済システムを用いて収益を上げているからだ。アメリカのある大企業がこの暗号通貨の可能性に着目し、あらゆる決済活動から生まれる収益が個人に流れるようなシステムを開発し全世界に広める計画を立てている。この企業は広告を利用しない直販制を貫いていて、一般の大企業とは理念が異なる。わずかな人たちのところだけに集まっている京を超えるお金を世界に解放しようというわけだ。」
「その企業が世界を変えると思っているのかい。」
と私は尋ねた。
「企業だけで世界を変えることはできない。彼らはお金の計算しかできないから。人間および人間の文明を根底から動かしているのは頭の働きなんだ。だから、頭の働きを納得させる新しい思想というものがどうしても必要となる。そしてさらに五感と心に訴える新しいイマジネーションも必要である。つまり、経済、テクノロジー、思想、芸術、宗教といった文化が一体となって一つの方向に動いたとき、必然的に支配体制が変革を迫られ、確実に世界の流れが変わるのだ。文明のパラダイムシフトだよ。」
「そんなことが出来るのかな。」
と再び尋ねた。
「それが今日伝えようとした内容なんだ。われわれは、現生人類の限界を超えるための思想というものをはっきり持っている。それに基づいた新しいイマジネーションと精神を打ち出していくこともできる。汲めども尽きぬ泉のようにね。くだんの企業がそのことを認めたらしいのだ。そして、水面下でコンタクトを取ってきた。どうやら新しい文明を創造するという規模での経済革命を起こすことを考えているらしい。そのためには、未来を創造していく力を持った文化活動との提携も必要なのだ。そう考えて、われわれにも提携する気はないかという打診をしてきたのだ。」
「どうすんの。打ち倒すべき相手は、大統領でも暗殺してしまうような組織だよ。」
「こんなことにもなろうと考えて、世の中に姿を見せない秘密結社として活動しているのだ。暗号通貨の発案者も正体不明の匿名であった。暗殺されることを危惧したに違いない。我らは世界に与えることは幾らでも出来るが、何かを支配することには一切興味がない。何かを欲しがっているわけではないのだ。従って、ピラミッド構造の支配体制には始めから属していない。彼らがそのことを理解できるかどうかだね。それが理解できないならば一切お断りだ。」
女装した同志は、演説をするかのように滔々と論じ続けた。

店を出て、駅に着くと、先ほどの蒸気機関車は、いつのまにかリニアモーターカーに変化していた。白黒だった風景はカラーに変貌し、列車は路線を音もなく走って20分ほどで東京に着いてしまった。

幻夢から醒めて我に返った私は、ややこしい内容を思い出しながら、最初に出てきた長たらしい秘密結社の名前に驚いていた。
「Don't think about the human being thinking.(人間の考えることは考えない)」
こんな言葉、生まれて始めて聞く。私の過去の記憶の中には無い言葉であった。テレビで見た覚えも無い。いったい、どこからやってきて私の記憶に焼き付いたのであろうか。それは、幻夢の中に客観的に実在する言葉であったようだ。言葉もまた存在の一員なのだ。
人間の考えではない考え、案外そんな思想が未来の文明を切り開くきっかけになるのかも知れない。この幻夢を体験してから私は、次第にそんなふうに考えるようになったのである。

了 2017/11/29




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