太陽 ENGINET | 七福神蓄財倶楽部 月

私が見た、夢でもなく現実でもない世界

第3話 永劫輪廻の列車


作者 目次


輪廻する列車

窓には雪がこびり付き、窓の外は一面の銀世界だった。
其れはどうやら列車の中らしい。
行き先は不明。
私は一人薄暗い車内に一人ぽつんと座っていた。
通路を挟んだ反対側には年老いた老夫婦らしき二人連れが座っていた。
彼等には会話も無くただ無言で窓の外を見ていた。
私も一人窓の外に映る景色を観ていたが、やがて背後から車掌らしきものが来て、
「切符を拝見します。」
と言ってきた。
私は慌ててズボンに手を入れ切符を捜したが何処にも切符らしきものは無かった。
しょうがなく私は切符が見当たらないと、その車掌らしき男に言ってみた。
すると車掌は私の予想に反してニコッと微笑み、
「まあ、いいです。後でお支払いください。」
と言った。
私は「あ、ハイ 。」とだけ言って頷いた。
車掌は老夫婦が座ってる座席へと向かって、
「切符を拝見します。」
と老夫婦に言った。
然し老夫婦は耳が遠いせいなのか、窓の外を見たまま車掌の問いかけに反応はなかった。
すると車掌は老婆の肩をぽつんと叩いた。

老婆は慌てた様子も無くゆっくりと振り向いて、
「ワシらはただの旅人じゃよ!そやろ爺さん。」
と言った。
爺さんには何の反応も無く窓の外を眺めてるだけだった。
車掌はまたまた微笑んで、
「そうですか。わかりました。」
と言ってその場を立ち去ろうとしたが、行き先の解らない私は車掌に、
「この列車は何処に行くんですか?」
と尋ねた。
すると窓の外を眺めていた爺さんがいきなり振り向いて、
「なんや兄ちゃん行き先もわからずに乗ったのか?」
と言ってきた。
私が頷くと その爺さんは急に大きな声で笑いだし、
「兄ちゃんこの列車に行き先なんかあるもんか!そうやろ車掌さん!」
車掌も微笑みながら私に、
「ええ、そうですよこの列車には行き先なんてありませんよ。お客さん !」
私は急に不安になり、
「 行き先が無い列車なをかあるもんか!」
と思わず声を荒げた。
「この列車はレールの上を走っているわけではありませんからね。」
と車掌が答える。
「そんな、馬鹿な!」
私はますます不安になって叫んだ。
「この列車は、存在の法則を原動力にしておもむくままに動いているのですよ。」
「存在の法則?いったいなんですか、それは」
と私は質問した。
「すなわち、どこかに幸福はないか、どこかに面白いことはないか、どこかに安らぎはないか、という思いによって動かされているのです。」
「しかし、そのような場所は決してどこにもありません。それ故に、この列車は永遠に動き続けるのです。」
と車掌は解説をしてくれた。
「列車が何かを思ったりするものか。それに、永久機関のようなものは物理学上存在しないとされている。」
と、私は反論した。
「列車が何かを思うのではく、存在が思うのです。物理法則ではなく、存在の法則と私は言ったはずです。」
「この法則を無明といいます。無明があるが故に、存在は存在することを続けようとして、宇宙が生み出され、万物の秩序が生み出されます。物理学者たちはこの秩序が作り出される法則をさぐっているだけなのですよ。無明があるが故に、存在は存在をやめていくことが永遠にできないのです。そこには始まりも終わりもないのです。」
と、車掌はますます難解な解説をしてきた。何なんだこの車掌は。
「だいたい幸福を求めるなんて当たり前のこと。それを間違ったことのように言うのが変だ。あなたがたはなぜこの列車に乗ったのですか?」
と、私は今度は老夫婦に質問してみた。
「そう、当たり前やねえ!だから存在は終わらない。ありもしないものを求めているからねえ。千変万化、無明によって輪廻をくり返す宇宙を眺めるのは面白い。そうだろ、婆さん。」
と爺さんが答えた。
「そうじゃよ!永劫の輪廻を眺めて楽しむのは人生最高の醍醐味じゃて。だからこの列車に乗るのさ。」
と今度は婆さんが答えた。
「無明がなくなれば、存在という幻は泡のように消えてなくなりますよ。そこには、有も無もありません。これを涅槃といいます。説明不可能な安らぎを得るのです。それを教えてあげるのがこの列車の目的なのです。このからくりは神でさえも知り得ません。人間であるあなたが理解できないと思うのは当然のことなのです。ご心配なさらずに。」
最後に車掌はそのように告げた。

私は、正気に戻ってからこの問答についてくり返し熟考してみた。
そして、"あの車掌は仙人よりもさらに偉大な存在、仏陀に違いない"という結論に達した。
仏典の中に、仏陀は地獄、餓鬼、畜生、人間、阿修羅、天界とあらゆる世界に姿を変えて現れて教えを説く、説かれた相手は彼が誰なのか知ることはない。という記述があったのを思い出した。

あの車掌は、仏陀にしか言えないことを確かに語っていたのである。

あなたは、どう考えますか。

了 2017/11/24




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