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私が見た、夢でもなく現実でもない世界

第2話 仙界への階段


作者 目次


仙界への階段

巨大な白亜の宮殿がいきなり私の目の前に現れた。
私は目的も無いままに、私の知人と二人で白亜の宮殿を目指し幅広い階段を登り始めた。
その階段は一見大理石で作られた豪華な感じに見えたが、実際に登ってみたらソファのクッションの様に柔らかく弾力があった。
登ってみて何よりも面食らったのは、その階段の急な角度である。
70度はあろうかという柔らかな階段を私と私の友人とで登って行く、急な角度に戸惑いながらも私達はゆっくり登り始めた。
途中まで登ったくらいの時に私達はふと下を見渡すと、かなりの高さまで登ったらしく、周りの風景が一望できた。
其れはまるで、雲の上から下界を見下ろすかの様で、私達はたじろいだ。
私はあまりの恐怖心から友人に 「 かなり高いな!角度は急だし、まだ半分しか登ってないな。私は高所恐怖症なんだ! 」
と登りたくないと告げた。
するとその友人も「 そうだねー降りて他の場所から行こう 」とアッサリ私の提案に賛同した。
私達は駆け足で階段を降りて行った。
下に着いて横を見てみると普通の階段が目についた。
早速私達は其方の階段を登り始めた。
その階段は角度も急ではなく、日常にありふれた階段であった。
恐怖心から解放された私は足早に階段を登り始め簡単に豪華な建物の入り口までたどり着いた。
ふと横を見ると私の友人の姿が何処かに消えていた。
私はそんな事は気にせず一人宮殿の中へ入って行った。
中に入ると吹き抜けの天井が頭上に広がり、目の前に高さ30メートルはあろうかという馬鹿デカイ仏像が目に飛び込んできた。
何やらここはどこかの宗教施設らしい。
異様に顔がデカく、目の細い男が一人私に近づいてきた。
「 此方へどうぞ。」

私は特に不安も無く案内されるまま、その男の指示に従った。
長い廊下を異様な顔立ちの男と歩いていると、途中にはいくつもの部屋があり、中の様子は窺い知れないが、何やら怪しげな呪文、あるいは聞いた事のないお経みたいなものが私の耳に飛び込んできた。
私は不安になりながらも、好奇心がわいてきて、背伸びをしてガラス越しにちらっと、部屋の中を覗いて見た。
すると何らや子供らしき後姿が目に入ってきた。
その子供は何やら懸命に呪文みたいなものをひたすらに唱えていた。
私は面白く思い少し立ち止まって見ていた。
すると私を案内してる男がいきなり「 その部屋は見たらダメですよ 」 と言ってきた。
するとその声に気がついた小学生らしき子供がふと後ろを振り返り、覗き見をしてる私と目が合った。
私は仰天して思わず声が出そうになった。
何故ならその子供は身体は子供のようだが、その顔立ちはまるで老人のように皺くちゃで窪んだ目の淵からは、今にも飛び出しそうな眼光がキラリと光っていた。
なんとも言えない眼光の鋭さに一瞬たじろいだ。
其れはまさに老少年とでも言うような、子供のような身体、子供のような甲高い声、そして顔だけが老人という一種の畸形であった。


さて、このビジョンはとてもわかりやすい象徴の世界なのでここで簡単に解析をしてみよう。
まず、主人公である老少年の姿。
これは、古代中国の時代から連綿と受け継がれている神仙思想の世界における仙に生きる人の特徴とぴったり一致している。
神仙思想では、世界を大きく俗と仙の2つに分ける。
仙の世界に入った人を仙人という。
仙人はこの世で何百年も生きているかのような老成した人物であると同時に少年のような心身をもっているとされる。
そして、もう一つ俗人とは異なったはっきりとした特徴があり、それは瞳であるというのである。
それ故に、仙を見分けるためには瞳を見ればよいとされている。仙道のある一派では瞳孔が菱形になっているので判別できると説いているそうだ。
要するに、眼光だけは明らかに常人と異なるのである。
私の幻夢に現れた老少年、これは仙の人なのである。
白亜の宮殿も巨大な仏像も、この仙が私に向けて作りだした世界だったのだ。
白い色は、清らかな世界、天界、聖なる世界を表す。
巨大な仏像は大乗仏教の思想の象徴である。大乗仏教は、無限に善業を積み続けることによって、全宇宙、三千大千世界を自らの功徳によって飽和させてしまうことを目指す。インドだけに生まれ得た最も広大無辺な思想である。
頭の大きな案内人は、現代人の知らない高度な知性の世界に誘おうとしていることを象徴している。
私は、仙によって、聖なる世界、広大無辺なる思想、高度な知性の世界へと誘われたのである。
しかし、この世界に入っていくためには、俗というものをきっぱり捨てなければならない。俗の世界になじむことをやめ、俗の世界の考え方や価値観もすべて捨て、俗の世界の人たちとつきあうこともやめていかなければならない。
仙は最初に、私がこの世界の高い部分に短時間で入っていけるように急角度の階段を用意した。私が急な階段を怖がるかも知れないと考え、柔らかいクッション仕立てにしてくれたようだ。
しかし、何ともだらしないことに、私はそれでも怖じ気づいてしまったのである。私は俗の世界から離れていかなければならないことを自分では解っていながらも無意識の中ではまだ強い愛着を持っているようだ。
私が急階段を降りてしまったので、今度は、低い所にある入り口へ至る普通の階段が用意された。
普通の階段を上る途中、知人がいなくなってしまったのは、仙の世界を知るためには普通の人たちとの付き合いをやめていかなければならないという掟を、私が受け入れたことを表している。仙の世界の恩恵を受けるための第一段階は少なくともクリアしたようだ。
仙はなぜ、俗の世界の人間を仙の世界に誘おうとするのだろうか。
仙は、自己と世界がどのようにして創られるのかという仕組みを知っており、この世で、莫大な富でも名誉でも権力でも地位でも才能でも、それらを得ようと思えば自由自在である。逆に見れば、この世で天才や英雄、普通の人には成し遂げられないようなことをした人や、大きな富を築いたような人たちは多かれ少なかれ仙の世界の影響を受けているはずなのである。
仙は、俗の世界において栄光あるとされるあらゆる事柄を実現する力はあるが、仙自身はそのようなことに興味を持っていない。そのため、世界の幸福のため何かを実現していくことが必要な場合、それらを他人にやらせようとするのである。
俗の世界にありながらも、天才や英雄、富豪になる素質を持った人、あるいは仙そのものになる特性を持った人に自らの叡智の一端を伝えようとするのだ。
私は、仙の世界の下方に至る道を選んだ。これから、私が自分が望む最も高度なことを実現できるかどうかは、さらに階段を上がる努力を継続させていくことができるかどうかにかかっているようだ。

了 2017/11/18




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